【協会】旅のあれこれ 『西表イントゥ・ザ・ワイルド』



■ 旅、時々ユースホステル~旅やユースホステルに関するエッセイ~

旅のあれこれ 『西表イントゥ・ザ・ワイルド』



旅好き界隈には「沈没」という言葉があります。
移動をせずに気に入った場所に居着いて、
特に何をするでもなくブラブラ過ごすことを指します。

東南アジアなどで特に多くて、
どの街に行っても一人はこういう人を見かけます。
かくいう僕もラオスで10日間ほどの沈没経験があるので、
それもまあいい経験のひとつかなと思っています。

でも、もしあの沈没を延々と続けていたら。
ダラダラと惰性の旅を続けて、
旅を中心に人生が回っていってしまっていたら。
考えると恐ろしい事があります。
今回は、そんな旅の恐ろしさについてのお話です。

大学時代にダイビングをしていた僕は、
夏休みを利用してダイビングショップのお手伝いをすることになりました。
受け入れ先は沖縄・西表島のとあるダイビングショップ。

慣れない作業や初の一人暮らしに戸惑いながらも、
楽しい島の人達や美しい海に支えられて、日々暮らしておりました。

夏休み期間なのでそれこそほぼ休みなどないのですが、
たまたま船の出ない日にお休みを丸一日頂きました。

先輩が原付を貸してくれたので、
どうせなら島の端まで行ってみようと考えて、
島に西端にある「南風見田の浜」という
ビーチを目指すことにしました。

原付をひたすら走らせ約1時間、最果てのビーチに到着。
とにかくだだ広いビーチで、海岸線沿いに果てしなく続いています。

行けるとこまでいってみるか、
と最果てのビーチの更に果てまで、
歩いて行ってみることにしました。

奥に行くに連れて周囲に全く人気がなくなり、ケータイも圏外に。
冒険っぽさが増してきます。
インディー・ジョーンズ気分です。

いくつも岩場を乗り越え、どんどん歩いて行くと、
砂浜と茂みの間ぐらいに、掘っ建て小屋を発見しました。
ごく粗末かつ簡素なものだったので、その時は
「まあ漁師の道具小屋だろう」としか考えていませんでした。

しばらくして遂に行き止まりに着いたので
元来た道を引き返す事に。

さっき見かけた小屋の前にさしかかったとき、
ある異変に気付きました。

来た時は、自分がつけた海沿いに続く足あとしかありませんでした。
しかし、それ以外の足あとが増えているのです。
小屋の方向から海に入り、また戻っていく裸足の足あとが…。

恐る恐る、小屋の方向に視線を移すと

ボサボサの

半裸のおっさんが

こっちを睨んでいる。

これはヤバい。
相手はどう考えてもマトモじゃない。

しかも場所が場所だけに人も呼べない。

導き出した答えは「目を逸らして足早に去る」ことです。
下手に相手を刺激するのは危険と判断しました。

とにかくなるべく早足で立ち去る事。これに専念しました。

しばらくは薮の方から
ガサガサと音が聞こえていましたが、
やがてそれも消え、振り向いても誰もいませんでした。

あまりに衝撃的な体験だったため
帰りに立ち寄った食堂のおばちゃんに聞いた所、
色々な話を聞かせてもらいました。

「70年代から浜や近くのキャンプ場にヒッピーが溜まりだした」
「世捨て人が点在して、浜で自給自足の生活をしている」
「必要最低限の物資や酒は集落に買いに来る」
「金が無くなるとキビ刈り(サトウキビを刈る季節労働)で金を稼いでいる」
「やはりちょっとおかしいのであまり近寄らない方がいい」

当時はただただヤバイやつとしか思わなかったのですが、
今考えると、あの人も昔はどこにでもいる
旅行者だったのではないかなと考えてしまいます。

旅が好きすぎるあまり、旅に取り憑かれたようになり、
遂には人生まで絡め取られた結果、
あの場所に行き着いたのじゃないかな…と。

旅の魅力は反面、人を陥れる魔力なのかも知れません。
自分でも戒めながら、次の旅へ出たいと思います。



Writer:新倉 遊
1988年生まれ。名前を読んで字の如く、
沖縄・奄美・欧州・東南アジアを遊んで周っておりました。
夢は世界一周と自分の宿を持つこと。素潜り大好き。
現在京都ユースホステル協会職員。

カテゴリー: ニュースリリース, 旅(ホステリング), 記事/旅紀行   タグ:   この投稿のパーマリンク

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