■ 旅、時々ユースホステル~旅やユースホステルに関するエッセイ~
『口は幸いのもと』
交流 ~ 旅先で出会う人と、言葉を交わすこと。
旅の醍醐味だという方もいらっしゃるかもしれません。
簡単なことのようで、私にはすこし勇気のいることでした。
しかし、とある出会いをきっかけに、その勇気のタップを
緩める感覚を実感できた出来事について今回は記します。
冬休みを利用して、語学留学へ。
行き先は、かねてよりアートや福祉の面で興味の絶えなかったイギリス、首都ロンドン。
中継の地であるオランダ、アムステルダム・スキポール空港で、
私は不安を膨らませていました。
「急遽、ホストファミリーが受け入れ出来なくなりました。
新しい受け入れ先をお送りします。」
とのメールが、メールボックスに届いていたのです。
それまで、少なからず連絡を交わし、会ったことはまだないけれど、
情を寄せはじめていた家族の人たち。
たった一文で、芽生え始めていた関係があっさりと
なくなってしまったことに、途方に暮れるしかありませんでした。
何とかなる、そう考えようとしても、幸先の不安からくる心細さは拭えません。
何せ、はじめての一人旅でもありました。
搭乗を待ち、ぼうっと立っていたときでした。
「日本のどこから来たの?」
と、異国の言葉を次々とキャッチしていた鼓膜に、
とつぜん、馴染み深い母国語が。
話しかけてくれたのは、白人の男性でした。
その彼は福岡在住のイギリス人で、
クリスマスにあわせて家族の元へ帰るところだということでした。
福岡では、英語学習に役立つアプリの開発などに携わっているそう。
語学学校へ通いに行くんです、と言うと
「今から英語で話した方がいいですか?」と、
気さくな提案もしてくれたり(結局、日本語で話し通してしまいましたが…。)
心細さは、すっかり失せていました。
あっという間に搭乗時間になり、その彼とは別々の席へ。
私のシートの隣は、イギリス人女性でした。
先ほどの男性のおかげで、見知らぬ地で出会う人に対して、
心がすっかりオープンになっていた私は、
どうやって彼女に話しかけようか、とそわそわしていました。
シートベルトのサインが消えた頃。
彼女が足元のカバンを開けたとき、分厚いガイドブックの“JAPAN”の文字が。
他人さまのカバンの中身を覗くなんて失礼だけれど、そのときはすかさず
「日本へ行っていたんですか?」
と彼女に話しかけていました。
大学では生物学を専攻している彼女。
話していくうちに、年齢が同じだと判明しました。
ヒースロー空港へ到着するまでの間、その彼女の、
日本での日々の感想を聴かせてもらったり、
イギリスの食文化について尋ね、ステーキパイを勧めてもらったり…。
彼女の隣のインド人男性から、ナチョスを頂いて、三人でボリボリと食べたり。
空港に降り立ったとき、最初に話しかけてくれた彼、
そして彼女から「楽しんでね」と声をかけてもらいました。
私はその一言の別れの言葉を、深く立ち入らない距離感を
なんだか心地良いと感じました。
その出会いは私を励ましてくれ、今では旅の記憶、
ひいては訪れた国であるイギリスの印象と、深く結びついています。
幸先がいい―。
数時間前とは打って変わって、そんなふうに思えた空路でした。
こちらのエッセイでは、印象的だった出会いについての記憶や、
アート・デザインなどその国の文化について触れていきたいです。
エッセイを通して皆さんの心が、青空の先、あるいは海を越えて、
旅心地を味わえますように。旅への第一歩をあと押しできますように。(続く)
Writer:おざわ ありす
1991年生まれ。生まれてはじめて訪れた国は、
高校時代に美術研修で訪れたドイツ・ベルリン。
アート、デザインを通して社会を
よりよくしていくような取り組みに興味があります。
日本、京都のアートシーンに興味を持って宇多野ユースホステルへ
訪れる方の案内窓口のような存在になりたいと日々勉強中。