【協会】旅、時々ユースホステル『モンゴル 乗馬の旅(後編)』



■ 旅、時々ユースホステル~旅やユースホステルに関するエッセイ~
『モンゴル 乗馬の旅(後編)』


~前回までのあらすじ~
大学内に掲示されていたポスターを発見し、面白そう!
という軽いノリから始まったモンゴル乗馬の旅。

2泊3日の船旅から始まり、寝台列車を経て旅程4日目にして
たどり着いた秘境の地モンゴル。
建物がほぼ見当たらない、名の通りの大草原と、
果てしなく広がる澄んだ青空とのコントラストに私は心を奪われた。

この大地を馬で駆け巡れる喜びとこれから始まる緊張感に
私は胸躍らせていたのであった―、…のも束の間で。
いざ乗馬が始まると、その独特なリズムの取り方や
それに伴う体の振動の受け方に苦戦し、
大地と馬との一体感を感じつつも、
1日目にして私の身体は全身筋肉痛に陥ったのです。

はてさて、相方のポニニちゃんと共に私たちは
残りの2日間を乗り越えることができるのでしょうか…。




朝ごはん。
湯葉のようなものとじゃがいもを油で炒めたもの。
体力をかなり使うため、朝からカロリーがぎっしりです。

2日目の朝を迎えると、全私の身体は
全身ゴリゴリの筋肉痛になっていました。

今までに経験したことのない痛みです。
歩くこともしゃがむことも、全ての動作が痛すぎて、
端から見ると壊れかけのロボットみたいな動きをしていたかと思います。
いかに私が運動不足であったかを痛感しました。

それに、モンゴルの朝は非常に寒く、ヒートテックと
長そで2枚の上にダウンジャケットを着ていたのですが、
それでも心臓が凍えるくらいの寒さでした。

身体の痛みと寒さ…。
同時に降り注いだ心身の禍に、
私は大自然が持つ脅威に力負けした気分でした。

さらに私の目に飛び込んできたのは、
早朝に羊の解体ショーが突然開催されたことです。

トラックから運ばれてきた2頭の羊。
そのうちの1匹が数人がかりで手足を抑え、
羊が暴れられない態勢になると、
もう一人のナイフを持った人が一気に首を一刺し。

…血がどくどく流れ、亡き羊は微妙にピクピク動きながらも、
現地の方々はきれいに皮をはぎ、内臓を器に移し、
食用の部位を分け、あっという間に羊は骨と皮、血のじゅうたんだけに。

そしてその過程を見守り横でひたすらメェメェと
叫び続けるもう1匹の羊。カオスです。



初めて見る光景に最初の一突きは目をそらしてしまったのですが、
解体技が素早くて、案外慣れてくると
ひとつの芸術を見ている感覚に陥りました。
(ちなみにもう1匹の羊はトラックでまたどこかへ連れて行かれました…)
弱肉強食。自分が当事者になる瞬間でした。

朝から多分人生で視覚的に一番衝撃的なものを見せられ、
若干放心状態になっていましたが、
私のモチベーションが下がれば相方ポニニちゃんの士気も下がってしまう!

昨日知り合ったばかりなのに、
大自然を早足で駆け巡ったときは
ひとつの生物のように一体になれた、
二人でいれば怖いものなんて何もない!
かかってこい大自然ーっ!

私は(半ば無理やり)心を奮い立たせ、
準備運動をした後、ポニニちゃんのもとへ向かいました。

60頭ぐらい馬がいるのですが、
私が思うにポニニちゃんはどの馬よりも鬣がふさふさで
とてもチャーミングなのですぐ発見できます。

やはり馬も人間と同じようにそれぞれ
特徴があって性格も違うのでしょうか。

ポニニちゃんのことをもっと知りたい…。
昨日はあたふたしていたけど、今日は乗馬ができる最も長い一日。
ポニニちゃんと真っ向から向き合ってみよう。
そう決心してポニニちゃんの背中にまたがりました。

凍える寒さの中、
ポニニちゃんの頸元は暖かかったです。
なんだか安心しました。

そして2日目の乗馬がスタートです。

この日はとにかく大移動でした。
朝から日の入りまで馬を走らせ、
ひたすら自分と馬と大自然に向き合います。

筋肉痛がほんとしんどくて終始ゼェゼェで、
ポニニちゃんと呼吸が合わず、集団から離れて
行動することもしばしばでした。

しかしポニニちゃんはいらいらしたそぶりを見せず、
集団からかなり距離があったとしても、ゆっくり早足をしたまま、
私がリズムに乗れるのを待ってくれました。

私が逆の立場だったら、みんなに置いてきぼりをくらうのは不安になるし、
且つ騎士がヘンテコだったらいらいらして、
多少強引でも足早に集団に追いつこうと焦るかもしれない。

その点ポニニちゃんは冷静で、リズムが合うのを待ってくれている。
ポニニちゃんは私よりもはるかに気高く生きているし、
早足の度になびく鬣と後ろ姿は堂々としててかっこよく見えました。

私もせめて草原にいる間はポニニちゃんのように凛々しくありたい…
馬は、大古から遊牧民にとって誇りある存在として、
生活の一部でもあったがゆえに、
騎士それぞれの自分の生き写しでもあったのだろうか。

馬と向き合う時間が長い分、
日本にいたら絶対考えることのない
原始的な事までうねうね考えて、ずっと自分の中で
感慨に浸っていると、休憩ポイントに到着。


ごろーんと寝そべって休憩。
そこらじゅうに馬糞が落ちていましたが、
気候が乾燥しているため不思議とそんなに気にならなかったです。

そして再び4時間ほど走り続けて、ついにゴール。
長かった疾走の1日が終わり、気が付けばどっぷり夜になっていました。
ポニニちゃんもぶっ通し走り続けてさぞや疲れたろうに。
馬と意思疎通ができないのが少し残念です。。



夜ご飯はモンゴル式の料理。
ですが2日目に関しては、今朝解体した羊の肉を
丸焼きにしてBBQ大会が行われました…!

初めて羊肉を口にしたのですが、鶏肉よりは柔らかく、
でも油がジューシー。なんでも、羊肉の丸焼きは
高タンパク・高カロリーで、ビール等のお酒といっしょにつまむと
現地の人でも気分が悪くなるらしいです。

でも、まあ私は疲れの開放感から
少しお酒をいただいたんですけれどもね…!

若干酔いつつ、みんなとワイヤワイヤしながら2日目は終了。

そして3日目、最終日。

この日は最後ということで、
全員駆け足(一番早いリズム)で競争をします。
いわば今までの馬との信頼関係が試される日。
昨日は自分のことで精いっぱいでしたが、
果たしてポニニちゃんと少しでも信頼関係を
得ることができたのでしょうか。

今日も走る前から全身筋肉痛で正直泣きそうなぐらいの痛みでしたが、
今日は絶対走り切って、大自然を思い切り感じよう!
そう強く意気込んで出発したのですが…

中間地点あたりからだったか。
ずっと駆け足の体勢を維持していたのですが、
昨日の全身の痛みと駆け足状態を保つ事が想像以上にハードで、
体力を既に大量に消費した私は体全身に力が入らなくなってしまいました。

心意気は最後まで走る気満々だったのに、
私は馬に動かされた人形のようになって、
そこにあったのは、ポニニちゃんともぬけの殻になった私でした。

せっかく一緒に走り抜けてきたのに…諦めたくない…
しかし身体は言うことを聞かず、見かねたスタッフの
指示もあり、私はリタイアを選択しました。

ここまできてリタイアなんて情けない。恥ずかしい。
何よりポニニちゃんともっと走り抜けたかった。

しかしこれは私の一方的な要求であり、
もしかしたらポニニちゃんと乗馬のリズムや特徴も含め、
ポニニちゃんを深く理解できていなかったかもしれない。

馬と一体になれたあの躍動感は共に味わえたはずなのに、
私たちは信頼関係を築けていなかった。

人生初の途中棄権。
誰も乗っていないポニニちゃんが大地を走る姿を
トラックから横目でずーっと見てましたが、
ポニニちゃんが見えなくなった瞬間、
急に孤独と悔しさを感じて、泣きました。

長いようで短かった3日間がすべて終わり、後悔はありつつも、
体力の限界まで走り抜けた私は達成感に満ちていました。

最後は共にいてくれたポニニちゃんにお別れを告げます。
名残惜しいけど、3日間私と一緒に走ってくれてありがとう。

あなたの性格とか,深く理解できないままでごめんね。
これからも、病気にかからず元気で颯爽と走り続けてね。
あと、勝手にポニニちゃんとかいう変な名前つけてごめんなさい。

伝えたいことを全て言い、記念撮影をして、
ついに私たちは帰路へ発ちました。


日本に帰って思うのですが、
モンゴル(特に私が滞在した遊牧民族地帯)は
日本と比べガス、水道などのインフラは整っておらず、
Wi-fiも整っていなければ電子機器を使った娯楽もほぼ無いです。

代わりにあるのは、伝統の管弦楽器を弾いて演奏すること、
それにのって踊ること、体を張ったモンゴル相撲などの競技、
そして人同士の語り合いです。

私はモンゴルにいる間は携帯がつながらなかったので、
上記の娯楽を全て楽しみましたが、
それは、私たち日本人、ひいては文明を通り越した世界の人々が、
かつて確かに存在していた等身大の姿だったのかなと思います。

仲間や現地の方と実際に交流してみると、
言葉はほとんど通じませんでしたが、
自身の身体と、奏でる音楽、そして馬を通して
心が通じ合った瞬間は何度もありましたし、
心から笑い合える時間の方が多かった気がします。

モンゴルには、文明が渦巻き、モノがあふれる日本で生きる私たちにとって
忘れている何かを気付かせてくれたと思いますし、
その「何か」というのはきっとモンゴルにあったはず。

それは絆や友情、さらに伝統や文化も含めて
様々かもしれませんが、私はモンゴル乗馬の旅で、
その文明や進化の過程で落としてきた
「忘れ物」に沢山巡り合えた気がします。

もし、またモンゴルに行く際は、
その「忘れ物」を拾いに行こう、そう感じた旅なのでした。


Writer:坂田 泉
京都市在住。20歳の元インターン大学生。
高校の頃はワンダーフォーゲル部で山を登ってました。
現在は旅行にハマっており、たまに海外に行きます。
何でも挑戦したい人間です。

過去の記事
モンゴル 乗馬の旅(前編)

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