■ 旅、時々ユースホステル~旅やユースホステルに関するエッセイ~
旅のあれこれ『仁義なきバスツアー~タムコック死闘編~』
ツアーというと、バックパック旅行とは対極をなすものと捉えられがちです。
ツアーバスに揺られ、ガイドに連れられるままコンベア式に観光スポットを周る。
最近は色々なタイプがあるので一概には言えませんが、日本のツアーというとこのイメージが根強いです。
しかし広い世界に出ると、そんな常識は全く通用しません。
ツアーだろうと何だろうと、全ては自己責任なのです。
大学生活の締めくくりに、盟友Kとベトナム放浪の旅に出ていた時です。
ベトナムの首都、ハノイをぶらぶらして数日が経っておりました。
そろそろ町中も飽きてきたので、ワンデイツアーで
観光っぽいことでもしようかと思いました。
当然ツアー会社に申し込むことになるのですが、まずベトナムではこれが第一の難関です。
向こうの有名なツアー会社で「シンカフェ」というのがあるのですが、これを探すのが至難の技。
何故なら、町中偽シンカフェだらけでどれが本物かわからないのです。
ガイドブックに詳細な情報が書いてあるのですが、それでもわからない。
何しろシンカフェの両隣に偽物があるのです。
ここまでくると、もはやどれでも良くなってきます。
ある程度探しましたが見つからず、結局最寄りの偽物で申し込みしました。
行先はタムコックという水辺の景勝地です。
当日、どちらかというと廃車に近いマイクロバスがお迎えにきました。
明らかにだるそうな上に英語が微妙な男性ガイド。
いいですね、東南アジアです。鼻毛が両方から飛び出ています。
常にだるそう。
1月の曇天の中をガタガタのバスで揺られること3時間、
途中、ガイドの英語が微妙過ぎて
いまいちスゴさのわからない寺院を経由して、タムコックに到着です。
タムコックは何がすごいかと言いますと、奇岩の山々とそれを縫うように流れる川です。
古い水墨画のような、仙人が住んでいそうな不思議な風景が広がっています。
ハノイの喧騒を離れたのどかな雰囲気。
牛ものんびりと車を引きます。
レストランで腹ごしらえを済ませ、メインイベントのボート遊びです。
おばちゃん船頭が舵を取り、優美な景色の中をゆったりと進んでいきます。
あいにくな天気と冬で植物が枯れ気味ですが、春はもっと綺麗とのこと。
しかし、そこはベトナム。
舟遊びでさえもハードなアドベンチャーへと変わっていきます。主に人のせいで。
まずどこからともなくボートが現れ、強引に横づけ、おみやげを売りつけてきます。
海賊かお前ら。
日本でも2枚で100円で売ってそうなハンカチを、笑顔で「10ダラー、10ダラー!」
これはベトナム全体に言えることですが、ボッタクリの幅が近隣諸国の比ではありません。
10倍、20倍は当たり前に乗せてくるので、何を買うのもだいたい値段交渉が必須です。
買わないだろ、常識的に考えて…。
こちらが買わないとわかるとびっくりするぐらい無表情で去っていくのですが、
次々に後詰が来ます。エンドレス押し売り。
ようやく全部を断りきると、次はカメラ持ったおっさんがボートに乗って接近してきます。
笑顔で手を振ってあげると、こちらに向かってパシャリ。
そして最高の笑顔で「5ダラー!5ダラー!」
そうです、写真の押し売りです。
写真の仕上がりも見せてもらってないし、そもそも撮ってと頼んでさえいません。
もはや恐喝に近い。
一瞬ひるみました。
しかし、共に数々の修羅場を潜り抜けてきた盟友Kがとっさに機転を利かします。
相手をデジカメで撮り返し、
「10ダラー!10ダラー!」と叫びました。
満面の笑みで。
策士です。
写真恐喝返し。
さすが我が盟友です。
意表を突かれたおっさんは、ええー…みたいな顔をして去っていきました。
これに懲りてまっとうな商売をしていただきたいです。
おみやげ売りの猛襲を抜きにすれば、風光明媚な水郷です。
合間合間に訪れる静寂に、ベトナムの混沌を忘れられる一時でした。
この後、ツアーを終えて宿へ帰着、一路深夜バスで次の街を目指すのですが、
もちろんすんなり終わるはずがありません。
愉快なバスツアーは後編へ続きます…。
Writer:新倉 遊
1988年生まれ。名前を読んで字の如く、
沖縄・奄美・欧州・東南アジアを遊んで周っておりました。
夢は世界一周と自分の宿を持つこと。素潜り大好き。
現在京都ユースホステル協会職員。