■ 旅、時々ユースホステル~旅やユースホステルに関するエッセイ~
『イギリスの病院アート』
こんにちは。
イギリス文化・アートやデザインに興味津々なオザワです。
これまで、イギリスの旅について書いてきました。
そもそも、私がイギリスに興味を抱いたきっかけは、
高校時代に「病院をアートでよりよい環境にする」という考え方に出会い、
その最先端を行くのがイギリスだと知ったからでした。
イギリスでは”Arts&Health”, ”Arts in Health”などと呼ばれており、
日本でも森口ゆたか氏が提唱した”ホスピタルアート”という名が浸透しつつあります。
今回はイギリスでのアートと病院の関係について少しご紹介します。
イギリスでは国の方針として”Well Being”が掲げられているのをご存知でしょうか?
”クオリティ・オブ・ライフ” と言うと、聞き覚えがあるかと思います。
言葉は違いますが、考え方は似ています。
国民ひとりひとりが、より自分らしく、幸福に人生を歩んでいくには
どうすればよいかを考える、ということを国で行っているのです。
Well Beingを進める中で、イギリスの病院では、患者の方々や
そこで働く人たちが、より前向きに治療や医療と向き合える環境にするため、
アートがとても積極的に取り入れられています。
具体的な例を挙げると、病院を建設する際に、
その費用の1%をアート作品の設置に充てると、
国から助成金が支給されるといった制度があります。
イギリス以外ではスウェーデンなど、
特にヨーロッパ諸国でこういった制度が見られます。
また、アートの事例ではありませんが、新しい子ども病院を建設する際に、
入院している子ども1000人に「病院に何を望むか?」というアンケートを実施した結果、
”自然”が一位だったため、国立庭園内に病院が建設されたケースもあります。
イギリス国内でもまだ出来たての病院、Alder Hey Children’s Hospitalがこの例です。
収益金の中からリース料を国に支払うことで、国立庭園での建設が実現しました。
ところで、皆さんが「病院」と聞くと、
最初に思い浮かぶ光景はどういったものでしょうか?
私自身、肺炎で10歳の頃に入院したこともあり
「白い壁」「白いカーテン」「点滴台のチューブや鉄棒の色」
といった、無機質な光景が浮かびました。
無機質も何も、そもそもそれが当たり前なのでは?
と思うかもしれませんが、例えばこれから入院する
という子どもの身になって考えると、家族から離れなければならず、
寂しいところに、無機質な環境に放り込まれてはますます不安な気持ちが膨らみます。
ところがもし、病院の玄関に…
【引用→ http://www.basisdesign.com/2010/03/evelina-childrens-hospital/】
こんな色鮮やかな滑り台があれば、子どもはどう感じるでしょう?
(画像は”Evelina London Children’s Hospital”のエントランスです。)
「早く滑ってみたい!」寂しくても、ここで遊べるというワクワク感は、
少なくとも不安な気持ちがそれ以上膨らむのを防いでくれそうです。
また、同じように遊んでいる子どもと友だちになれるかもしれません。
「滑り台だなんて、病院で事故が起こってしまうのでは?」
そんな意見が聞こえてきそうです。
私もこのアートに対するワクワク感とは別に、心配な気持ちも少しあります。
イギリスのホスピタルアートの事例を見ていくと、
確かに日本では「危ない」からと却下されそうなものもあります。
しかし、イギリスではただ闇雲にアートを置いているのではなく、
国の政策として、きちんと利用している人々のフィードバックを取りながら、
アートを医学的に取り入れています。
私には、子どもたちの笑顔や、アートに触れている患者さんの
安らかな顔が何よりの成果のように思います。
日本でも、今後さらにアートを積極的に取り入れる病院が
増えてくれることを、願ってやみません。
そんな訳で、いつか、イギリスの病院でアートが
取り入れられている現場を見てみたい、と漠然と思っていました。
初めての渡英、私はついに憧れていた
”Evelina London Children’s Hospital”の入り口に立ったのでした…
《つづく》
Writer:おざわ ありす
1991年生まれ。生まれてはじめて訪れた国は、高校時代に美術研修で訪れたドイツ・ベルリン。
アート、デザインを通して社会をよりよくしていくような取り組みに興味があります。
日本、京都のアートシーンに興味を持って宇多野ユースホステルへ。
訪れる方の案内窓口のような存在になりたいと日々勉強中。