■ 旅、時々ユースホステル~旅やユースホステルに関するエッセイ~
旅のあれこれ『テルマエ・タイペイ』
場所や状況が違えば、物事はそれに合わせて姿を変えます。
旅する中で「違い」に直面した時に、世の中に普遍のものなどないんだなと感じます。
先日、お休みを使って台湾に行ってきました。
初めての台湾でしたが行く先々で現地人に間違われ、
帰りの飛行機で日本人の女性にも「謝謝」と
言われたのが心に小さな傷として残っております…。
さて、台湾には非常に多くの温泉がある事を御存じでしょうか?
火山島であるために源泉が非常に多く、
日本が統治していた時代に日本式の入浴文化が
持ち込まれたため、温泉施設もとても発達しています。
夜勤明けには必ず銭湯に行くほどの
風呂ジャンキーの僕としては、
見逃すわけにはいきません。
台北市内よりほど近い、新北投
(シンベイトウ)温泉へと向かいました。
新北投温泉は20世紀初頭に開発された古き良き温泉郷で、
中央に川が流れる地形になっています。
有馬温泉と似ているというのが僕の印象でした。
僕が言ったのは公営の大衆露天温泉で、なんと混浴でした。
まあもちろん水着着用ですが…。
入ってみるとものすごい人!
日曜夕方のスーパー銭湯並みの混雑です。
しかも結構多国籍で、アジア各国はもちろん欧米人もちらほら。
温泉の魅力ってきっと世界共通なんです。
さて、忙しく観光したからゆっくりしよう。
そう思いながら湯船に浸かろうとしたその時、
ものすごいホイッスルの音が鳴り響いたのでした!
音のする方をみると、客の一人に赤パン一丁の
おっさんが何かを叫んでいます。
中国語ですが「タオルを湯船から出せ!」
という事を言っているようです。
どうやらこの赤パン、温泉の秩序を乱れを取り締まる、
「ビーチキーパー」ならぬ「温泉キーパー」のようです。
次々に現れる不届き者に対し、激しいホイッスルと
ボディーランゲージで温泉キーパーが好セーブを連発していきます。
ピピー!
オマエ、かかり湯をしろ!
ピピー!
オマエ、泳ぐな!
ピピー!
オマエ、飲み物を湯船に持ち込むな!
うるせえ…。
赤パンたちのホイッスルが度々鳴り響き、
のんびりとした温泉気分に浸れません。
温度も気持よくて、入った後は肌すべっすべになり、
ビールも最高に美味しかったのに、
なんだか残念な気持ちでした。
しかし、今考えると、温泉キーパーの存在は道理に適っているなと思います。
多国籍になればなるほど、入浴に対しての常識はそれぞれ違います。
公衆浴場が初めての人だって、当然出てくるでしょうし、
そのような人にルールを守れと言っても土台無理な話。
そういった状況の中では、ルールを教え守る
温泉キーパーがいないと必ずトラブルが起きてしまうでしょう。
それぞれの「違い」の存在を認め、ルールを共有するための温泉キーパー。
これから温泉には、必要不可欠な存在なのかも知れません。
でも温泉には静かに入りたい…。笑
Writer:新倉 遊
1988年生まれ。名前を読んで字の如く、
沖縄・奄美・欧州・東南アジアを遊んで周っておりました。
夢は世界一周と自分の宿を持つこと。素潜り大好き。
現在京都ユースホステル協会職員。
※テルマエ (thermae)とは、ラテン語で、古代ローマ時代の「公衆浴場」という意味。