【協会】旅のあれこれ『グレートメコン・スマグラーズ』



■ 旅、時々ユースホステル~旅やユースホステルに関するエッセイ~
旅のあれこれ『グレートメコン・スマグラーズ』

世の中には様々な「境目」が存在します。
国という大きな単位から、個人個人の間まで、
あらゆる物が目に見えない「境目」に囲まれて
内と外を分けながら日々を送っております。

しかし、一見はっきりと強固に見える「境目」も、
近づいて触れてみると案外ぼやけた
あいまいなものなのかも知れません。

2月にありがたいことにまた少し長いお休みを頂き、
ラオス深南部のシーパンドンを5年ぶりに再訪してきました。
東南アジア周遊中に立ち寄った中で一番のお気に入りの場所で、
必ずまた訪れたいと思っていた場所でした。

「シーパンドン」とはラオス・カンボジア国境付近の
メコン川に浮かぶ無数の中洲の総称で、
ラオ語で「4000の島」を意味します。

人が住んでいる島にはそれぞれ「ドン・○○」
といった感じで名前がついております。
人々は島々を船で往来し、
メコンの流れとともに暮らしています。

今回は全部で8個の島々を日々ホッピングしながら
過ごしていたのですが、正直、これといった観光地はありません。
唯一超でかい滝があるぐらいです。


▲メコン川最大の滝、コンパーペンの滝

酒を飲んで過ごす以外は、興味深い現地の人々の暮らしを日々眺めておりました。


▲やたらと焼酎を飲ませようとするおっさん


▲日本なら即逮捕だがカワイイから許す


▲島のトップアイドル


▲船頭ちゃん

数日過ごしていると、お気に入りの場所が見つかります。
今回のお気に入りはこのひなびたレストランでした。








ドン・コーングという一番大きな島の、西岸の船着場に面した一番いい場所に建っており、メコンに沈む夕陽が一望できます。
ここでビールをちびちびやりながら、行き交いする船と夕陽を眺めるのがオツなのでございます。



ある時、いつものようにレストランから船を眺めていると、少し変わった船がこっちに向かって来るのが見えました。
よく見るとラオス国旗ではなく、お隣のカンボジア国旗が立っています。
船は船着場に着岸し、水夫たちが荷物をガンガン降ろしていきます。



しかし、どう見てもパスポートのやり取りとかしていないんですね。
現地人どうしの往来は特に手続きとかいらないのかな…。

そんなことを思っていると、荷降ろしの済んだ水夫たちが勢い良くレストランへ入ってきてビールを飲み始めました。
気になって少し英語を解する店のオヤジに聞いてみると、やはりカンボジアから来ているとのこと。
たしかによく考えると川を挟んで一キロ先はカンボジア、場所によっては陸路国境を通るよりよっぽど早いに決まっています。
小規模貨物は程度は船で運んでしまうのでしょう。

ついでに何の気なしに「僕も乗れるの?」と聞くと、ちょっと待ってろ、とオヤジ。
後ろの水夫と2言3言話すと、「往復で10万キープ(約1300円)だ!」とのこと。
ひょんなことからラオス-カンボジア間の新ルートを発見してしまいました。

日帰りカンボジアもありかなと思ったのですが、大きな問題が一つ。
レンタルバイクを借りる際にパスポートを店に預けてしまっていたのです。

「悪いけど、パスポートないんだ。」と言うと、またもオヤジのちょっと待て。
水夫と2,3言話すと「OKだ!」

ダメだよ!
問題だよ!
密入国だよ!

さらに水夫が「ポリスはノープロブレムだ!」

プロブレムだよ!
大問題だよ!
どんだけ賄賂請求されるかわかったもんじゃないよ!

どうやらここで行われている船の往来は全て密入国及び密輸といった状況のようです。
ネタ的には魅力的なお話ではありましたが、本当に最悪死んでもおかしくないので丁重に辞退致しました。

しかし、よくよく考えてみると正しいのは彼らなのかも知れません。
太古の昔、それこそ国というものが成立する前、彼らの祖先は自由に船を操り、交易をして栄えていったのでしょう。
国が出来、欧米列強の支配や戦乱を経験するなかで、国境線というもの定められただけで、そんなこと彼らには何の関係ないのです。
むしろ彼らのようなのびやか姿が、本来あるべき姿なのだと思います。

その後、本当にカンボジア国境に面した島にも行ったのですが、
20mの川の対岸が別の国、というような日本ではちょっと考えられないような距離感でした。



地図にひかれた線はそこになく、ただ滔々と流れる自由な川があるだけなのでした。



Writer:新倉 遊
1988年生まれ。名前を読んで字の如く、
沖縄・奄美・欧州・東南アジアを遊んで周っておりました。
夢は世界一周と自分の宿を持つこと。素潜り大好き。
現在京都ユースホステル協会職員。




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