【協会】旅、時々ユースホステル『小豆島・高松 フェリーの旅(後編)』



■ 旅、時々ユースホステル~旅やユースホステルに関するエッセイ~

小豆島・高松 フェリーの旅(後編)


夜6時、高松港に到着!
四国本島、香川県の県庁所在地。



香川といえば。
大学の頃、エスカレーターの話題になり
(関東は左に並び、関西は右に並ぶというアレ)、
香川の友人に「香川はどっちなの?」と尋ねたことがある。
「ない」友人は真顔でそう言った。「香川には、エスカレーターはない」

しかし、船から降り立ち通路を進むと、エスカレーターがあった。
エスカレーターどころか、港は整備されていて、
いくつかモニュメントもあるし、きれいにライトアップもなされている。
道路も広く、まだ18時ということもあって車のライトが往来する。



▲徳島ラーメンだけど香川。

今まで行ったことのある港はみな繁華街から距離があり、
旅という非日常よりは商業船の色が濃く、
コンクリートの鈍色に寒々とした空気がどことなく漂っているものだった。
一方この高松港はどうだろうか。

県庁も高松城も港のすぐそばで、
サラリーマンがすぐ近くを歩いている。
街の中に港があるような感覚なのだ。

今日宿泊するゲストハウスに向かう途中、
アーケードのある商店街に入った。

アーケードの商店街は関西にも多くある。
三条、心斎橋、神戸…。

でもここの商店街は、道幅は狭いものの、
縦横にいくつかの商店街が連なっている。

道が狭いので車はあまり通らない。
地方の商店街が軒並みシャッター街になる中多彩なお店が並ぶ。
関西で言えば、奈良のもちいどの商店街が近いだろうか?

チェーン店ではなく個人のお店も多い。
さすがにこの時間では居酒屋しか空いていないが、
昼間歩くのもいいかもしれない。

街の賑わい振りにちょっと驚いたが良い雰囲気だ。

商店街から1本入り、ほどなくゲストハウスに着いた。
小さなビルの2階が入り口だった。

「明日の予定はお決まりですか」

チェックインを済ませるとゲストハウスの方から聞いてくれた。

渡りに船とばかりに何かオススメはあるか訪ねてみると、
栗林(りつりん)公園がいいのでは、と言われる。
駅前でレンタサイクルを借りていくと、ちょうど良い距離だ。

ゲストハウスの部屋は、内装も柄物のカーテンやファブリックが多く、
派手だけどまとまっていて可愛らしかった。
疲れた私は、すぐ眠りに落ちた。

***
翌日、さっそくレンタサイクルで栗林公園に向かう。
平日だったためかお客さんは少なく、
公園入り口に待機していた案内ボランティアの方が
人数が多いように見えたほどだった。

園内に入るとすぐ、ボランティアの方が案内どうですか、
と声を掛けてきたのでお言葉に甘えることにした。

私はこの栗林公園について恥ずかしながら全く知らなかったのだが、
明治時代の教科書には「日本三名園より木石の雅趣が優れた公園」とも書かれていたそうだ。

アメリカの日本庭園雑誌のランキングで、
足立美術館(島根)・桂離宮(京都)に次いで
3位にランキングしたこともある。

そして、この庭園はかなり広い。
三名園のひとつ、偕楽園(茨城)も世界第二位の広さを持つ都市公園だが、
江戸時代に庭園として整備された部分を比べれば、栗林公園には及ばないだろう。

ボランティアのおじさんが前を行く。
が、おじさんのボランティア用ジャンパーの背中には、
「この紋所が目に入らぬか!」
とばかりに、でかでかとした葵の御紋があった。

「徳川家ゆかりの場所なんですか?」
「高松藩初代藩主の松平頼重公が光圀公(水戸黄門)の兄でな」
「そうなんですか…私、生まれは水戸の近くなんですよ」

通常、家督は長男が継ぐ。
水戸徳川家も、本来光圀ではなく水戸藩初代藩主の長男である
頼重が継ぐはず…なのだが、実は頼重は生まれることすら反対され、
極秘裏に産み育てられたという。

「京都で育てられ、そのあと水戸に戻るんですわ。あんさんと逆ですな」
水戸徳川家は光圀が継ぐこととなったが、頼重もやがて認められ、茨城にある下館藩主となった。
その後、高松はお家騒動が起こったため幕府直轄地となり、頼重が転封されたのだという。

「しかしな、この”ねじれ”はちゃんと解消するんですわ」
水戸徳川家の長男である頼重自身は高松藩城主だったが、
その息子が光圀の養子に入り水戸徳川家を継いだのだ。

一方、頼重は光圀の息子を養子に迎え高松藩を継がせた。
このエピソードにはちょっと感動した。

長男の重さを考えたら、当然のことだったのかもしれないが…。

思わぬところで水戸徳川藩とつながりがあり、
縁を感じずにはいられない。

歴史的に見ても面白いが自然のみどころもたくさんあった。
単純に草木が多く植物が好きな人は一日楽しめるだろう。
また、皇族おてまきの大木や気象庁の標本木など
いろいろな面で興味深い植物があった。



▲ハート型のツツジ。インスタ映えしそうかな?





▲「芙容峰」から見下ろした風景。後ろに控える山を借景としている。











▲イケメン船頭さんの案内でお堀を船で巡る。
(乗船は別料金。撮影の許可は取っています)

ガイドのおじさんは、一周すると最後に大事なことを教えてくれた。
「うどん食べた?うどんマップあげるから、ちょっと待ってて」
入り口に戻ると、待機している他のボランティアさんもうどんマップあげたの!?
とおじさんに声を掛けている。

うどん、うどん…。
うどんは香川県、いやうどん県における最重要事項だ。

ちなみに、教えていただいたうどん屋は本当に美味しかった。
セルフ方式の店のシステムが分からなかったので、
見よう見まねでやってみたが、なんとかなった。

***
その後、ガイドのおじさんが進めていた喫茶店に向かう。
お店は「北浜アリー」という、海沿いの倉庫を利用した
お店が立ち並んだ一角にあった。

喫茶店への廊下は軋み、階段は狭い。
しかし古い小学校を歩いているような懐かしい雰囲気がある。

店に入ると、水平線の向こうに行ってしまった灯が
まだ少し夜空を照らしていた。

喫茶店以外にもコアな品ぞろえの本屋や、
アジアン雑貨の店、紙雑貨のお店、キッシュ専門店など
様々な店が並んでいたので、ひとつひとつ覗いてみる。

チラシが無造作に置かれているなかに、
「宿あります」の字を見つける。電話する。
これで今日の宿が決まった。

***
宿は、商店街の賑わいから少し離れた場所にあった。
「こんばんは」
昭和の一軒家をゲストハウスに改装したようで、
玄関を上がるとたたみの居間がまず見える。

居間は大きくなく、こたつ、ヒーター、マンガが並んだ本棚がある。
奥にはキッチン。

女性が1人こたつに入っていたので挨拶をしたがその女性も客だという。
「スタッフの方は…?」
「今たぶんいないですね…。」

少ししてスタッフがやってきた。
スタッフは私からお金を受け取り注意事項を言うと
またバタバタとどこかへ行ってしまった。

取り残された私たちは、こたつに入りながら話し始めた。
というか、こたつから出られなくなったのかもしれない。

キッシュどうぞ、と差し出すと
「わあ!これ、買いたかったのに行けなかったんです!」と、喜んでくれた。

よくよく考えると、昨日のゲストハウスの方のおかげで栗林公園に行き、
栗林公園のガイドさんのおかげで北浜アリーに行き、
北浜アリーの掲示板のおかげでこのゲストハウスにたどり着き、
キッシュが食べたかったこの人にキッシュを届けられたのだ。
何という縁だろう。

女性は徳島県のゲストハウスに住み込みで働いている方だった。
閑散期に入ったので旅に出ていて、
これから大阪・京都に行くが、自然が好きで、
京都でも広くてあまり人込みのない神社仏閣に行きたいということだった。

大阪から行きやすくてその条件に当てはまるところとして松尾大社を提案した。

大阪梅田から乗換1回、大阪からの運賃も安い、
お祭り以外は人が多くない、水がきれい、山にも上れる、
駅降りて目の前、庭園もある。

以上のことを説明すると「ぴったり!」と
言ってくれたが、喜んでもらえただろうか。

結局1~2時間話し込んでいた。
彼女は朝早く出るというので、先に部屋に戻った。

私は明日は帰るだけなので、居心地のいいこたつで
本棚のマンガを読みふけっていた。

香川を舞台にしたものだった。

***
朝起きると、彼女は既に出発していた。
商店街や高松港周辺をぶらぶらして
神戸行きの船に乗り込んだ。



夕暮れ時、甲板に出た。
見渡しても見渡しても水平線と、おぼろげな島しか見えない。
自分しかいないような、自分すらいないような、
いつもと違う自分が出てきたような、そんな感覚が浮かんでは消える。



「旅」って何だろうか。
何のために旅に出て、何を得られるのだろうか。
答えは人によって違うけれど、だからこそ自分の答えが知りたい。

今回の旅はここでおしまい。
でも、また何かに出会いたくて
何かを見たくて、旅に出るんだろう。

次はどこに行こう?
船がゆるやかに進んでいく。




Writer:Sachiko Tajiri
今回の旅は約1年前のことなのですが、書いてみると悩んでいた自分を追体験したように思います。
個人的には、「インスタ映え」よりも偶然の小さな出会いの方が好きです。

過去の記事
小豆島・高松 フェリーの旅(前編)
そうだ、鹿児島に行こう/^o^\(後篇)
そうだ、鹿児島に行こう/^o^\(前篇)
目的地としての関西空港(周辺)紀行

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