■ 旅、時々ユースホステル~旅やユースホステルに関するエッセイ~
旅のあれこれ『モーターサイクルダイアリーwithおとん』
家族と最後に旅行に行ったときのことを覚えているでしょうか?
働き始めて自活をしだすと、忙しいことも
相まって家族との時間は減りがちになります。
家で一緒に過ごすことはあっても、
それぞれが時間をしっかり合わせなければならない
家族旅行はなかなか難しいものがあります。
普通、家族との旅行といえば、温泉や遊園地といった
レジャー施設が一般的ではないでしょうか?
しかし僕と父の旅の目的地はラオス・カンボジア国境地帯、
メコン川に浮かぶ島々なのでした。
「おもしろそうだな、それ俺も行くわ」
僕は耳を疑いました。
たまたま次の旅行の計画を父に話していたのですが、
興味を持ったらしい父が自分も行くと言い出したのです。
なぜならその旅行の計画というのが、
常人の感覚で言えばかなり狂気じみた行程でした。
まず飛行機でタイに入り、飛行機とバスを乗り継いで陸路でラオスに入国。
さらに国境近くの街でバイクを借り、ラオス国道13号線を60㎞走破した後、
メコン川最大の滝のある村落に向かうというスーパーハードな道のりです。
そんな話を聞いて「おもしろそう俺も行く」と言い出すのですから、
父もかなりのぶっとび具合です。
御年60歳を超えているとは思えん。
血は争えないというやつでしょうか。
実際もっともな理由もありまして、
父はカメラマンを生業としていたのですが、
以前NHKのドキュメンタリーでみた
この付近をぜひ撮影したいとたびたび言ってました。
通常こういった場所にロケに行くときは
現地コーディネーターが必要なのですが、
以前一度行ったことがある僕なら案内もできるし、
経費を節約できるという算段もあったのでしょう。
結局、父は本当に来ることになり、
僕たちはバンコク・ドンムアン空港で集合することになりました。
バンコクから東部の街ウボンラチャタ二まで飛行機で移動し、
そこから控えめに言っても最悪な国際バスに乗ります。
何が最悪かと言いますと、
まずソファポケット・ドリンクホルダー・灰皿の
すべてにゴミが入ったままです。パーフェクトです。
それはまあ許せるとして、輪をかけて最悪なのは、
歌謡曲調のタイポップスがエンドレスで
しかも大音量で流れ続けている事です。
好きな曲でもきついのに、意味不明な言語の民謡を
延々聞かされるのは拷問以外の何物でもありませんでした。
途中、非常に管理の曖昧そうな国境を越えて
約4時間の行程を経てラオスの地方都市パクセ―につきます。
民謡責めに思わぬ疲労を強いられた僕たちは、その日の現地到着をあきらめ一泊。
ホテルから見えるメコンの夕暮れに期待感が高まります。
翌日は早朝からレンタルバイク探し。
いくつかあったのですが、
英語が流暢なおっさん(中川家弟似)のやっている
バイク屋でバイクを借りることに。
パスポートを預かられるのですが、
普通の机の引き出しに南京錠を付けたものが
保管場所らしく、とても不安でした。
滝のあるシーパンドンまでは一本道で迷うことはありません。
国道13号線をまっすぐ南へ進むだけです。
途中、謎の根菜タワーに出くわしたり
便所が恐ろしく汚い飯屋で休憩したり
地元の子ども達が水浴びしていたり
道自体は単調な一本道なのですが、めまぐるしく変わる異国の景色で彩りにあふれていました。
まったく観光ルートから外れたリアルな日常を覗けることが、
気ままなバイク旅の醍醐味と言えます。
滝までは道をまっすぐ行けば良いのですが、
メコン川のに浮かぶ島のローカル感に興味が湧き、
島々をホッピングすることに。
一番大きい島には橋が架かっていますが、その他はフェリーで渡ります。
まあフェリーと言ってもカヌーを2台繋げて板を渡しただだなのですが。
意外と安定はしている。
小さな島に入ると道は田舎レベルを増していきます。
もはや舗装道路など見当たらず、
あぜ道のような道を砂埃を上げながら進みます。
謎の柵、
デコボコの道、
いい加減なガソリンスタンド
牛、
豚、
犬、
やたら集まってくる現地の子ども、
やたら怪しい飲み物をすすめてくるおっさん
などなど、様々な障害が僕たちの前に立ちはだかりました。
宿につく頃は砂埃だらけの満身創痍です。
滝を見るのは翌日に取っておくことになりました。
ひと眠りすると夕暮れ時。
宿のレストランは川沿いにあり、メコンに沈む夕陽が一望できます。
川遊びをする子ども、漁をする大人、無心にシャッターを切る僕と父。
話す言葉は「すげーな」とか「最高だな」とか感嘆詞しか出てきません。
本当にすごいものを見た時、人はこうなってしまうのでしょう。
とにかく恐ろしいほどに夕景が美しくかったのです。
その後の三日間、小さな島を軸に周辺を撮影をし周りました。
とはいっても、のんびりしたものでしたが。
撮っては休憩、撮っては休憩。
なんでもない話をしながら、興味の赴くままに撮影。
仕事なのか旅行なのかはわからないですが、とにかく楽しかったのは確かです。
楽しければなんでもいいのです。
普段ひとりでふらふらしているのが常だったのですが、
家族と旅行するのも、なかなか面白いなと、
地の果ての辺境で思ったのでありました。
忙しい日常ではありますが、たまにはみんなで
少し長い休みを取って家族旅行も良いかもしれません。
それが突拍子もない行き先であっても、
トラブルがあっても、ケンカをしても、
その時間を共有したということは、
きっと忘れられないものになるはずです。
そしてそれは、かけがえのない財産なのです。
Writer:新倉 遊
1988年生まれ。名前を読んで字の如く、
沖縄・奄美・欧州・東南アジアを遊んで周っておりました。
夢は世界一周と自分の宿を持つこと。素潜り大好き。
現在京都ユースホステル協会職員。
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